拡張と埋め込み FAQ

目次

C で独自の関数を作ることはできますか?

はい。関数、変数、例外、そして新しいタイプまで含んだビルトインモジュールを C で作れます。これはドキュメント Python インタプリタの拡張と埋め込み で説明されています。

ほとんどの中級から上級の Python 本もこの話題を扱っています。

C++ で独自の関数を作ることはできますか?

はい。C++ 内にある C 互換機能を使ってできます。 extern "C" { ... } で Python のインクルードファイルを囲み、 extern "C" を Python インタプリタから呼ぶ各関数の前に置いてください。グローバルや静的な C++ オブジェクトの構造体を持つものは良くないでしょう。

C を書くのは大変です。他の方法はありませんか?

独自の C 拡張を書くための別のやり方は、目的によっていくつかあります。

速度が必要なら、 Psyco は Python バイトコードから x86 アセンブリコードを生成します。 Psyco でコードの最も時間制約が厳しい関数群をコンパイルすれば、 x-86 互換のプロセッサ上で動かす限り、わずかな手間で著しい改善ができます。

Cython とその親戚 Pyrex は、わずかに修正された Python を受け取り、対応する C コードを生成します。 Pyrex を使えば Python の C API を習得することなしに拡張を書けます。

今のところ Python 拡張が存在しないような C や C++ ライブラリへのインターフェイスが必要な場合、SWIG のようなツールで、そのライブラリのデータ型のラッピングを図れます。 SIPCXXBoostWeave でも C++ ライブラリをラッピングできます。

C から任意の Python 文を実行するにはどうしますか?

これを行う最高水準の関数は PyRun_SimpleString() で、一つの文字列引数を取り、モジュール __main__ のコンテキストでそれを実行し、成功なら 0、例外 (SyntaxError を含む) が発生したら -1 を返します。更に制御したければ、 PyRun_String() を使ってください。ソースは Python/pythonrun.c の 'PyRun_SimpleString() を参照してください。

C から任意の Python 式を評価するにはどうしますか?

先の質問の PyRun_String() を、スタートシンボル Py_eval_input を渡して呼び出してください。これは式を解析し、評価してその値を返します。

Python オブジェクトから C の値を取り出すにはどうしますか?

オブジェクトの型に依ります。タプルなら、 PyTuple_Size() が長さを返し、 PyTuple_GetItem() が指定されたインデックスの要素を返します。リストにも同様の関数 PyList_Size()PyList_GetItem() があります。

文字列なら、 PyString_Size() が長さを、 PyString_AsString() がその値へのポインタを返します。なお、Python の文字列には null バイトが含まれている可能性があるので、C の strlen() は使うべきではありません。

オブジェクトの型を検査するには、まず最初にそれが NULL でないことを確かめた上で、 PyString_Check()PyTuple_Check()PyList_Check() などを使います。

Python オブジェクトへの高レベルな API には、いわゆる 'abstract' インタフェースが提供するものもあります。機能の詳細は Include/abstract.h を読んでください。これで、 PySequence_Length()PySequence_GetItem() などの呼び出しであらゆるタイプの Python シーケンスのインタフェースができますし、その他多くの役立つプロトコルもできます。

Py_BuildValue() で任意長のタプルを作るにはどうしますか?

できません。代わりに t = PyTuple_New(n) を使い、 PyTuple_SetItem(t, i, o) でオブジェクトを埋めてください – なお、これは o のリファレンスカウントを "食う" ので、 Py_INCREF() しなければなりません。リストにも同様の関数 PyList_New(n)PyList_SetItem(l, i, o) があります。なお、タプルは Python コードに渡される前に 必ず すべての値が設定されていなければなリません – PyTuple_New(n) は各要素を初期化して NULL にしますが、これは Python の適切な値ではありません。

C からオブジェクトのメソッドを呼び出すにはどうしますか?

PyObject_CallMethod() 関数でオブジェクトの任意のメソッドを呼び出せます。パラメタは、オブジェクト、呼び出すメソッドの名前、 Py_BuildValue() で使われるようなフォーマット文字列、そして引数です:

PyObject *
PyObject_CallMethod(PyObject *object, char *method_name,
                    char *arg_format, ...);

これはメソッドを持ついかなるオブジェクトにも有効で、組み込みかユーザ定義かは関係ありません。返り値に対して Py_DECREF() する必要があることもあります。

例えば、あるファイルオブジェクトの "seek" メソッドを 10, 0 を引数として呼ぶとき (ファイルオブジェクトのポインタを "f" とします):

res = PyObject_CallMethod(f, "seek", "(ii)", 10, 0);
if (res == NULL) {
        ... an exception occurred ...
}
else {
        Py_DECREF(res);
}

なお、 PyObject_CallObject() の引数リストには 常に タプルが必要です。関数を引数なしで呼び出すには、フォーマットに "()" を渡し、関数を一つの引数で呼び出すには、関数を括弧でくくって例えば "(i)" としてください。

PyErr_Print() (その他 stdout/stderr に印字するもの) からの出力を受け取るにはどうしますか?

Python コード内で、 write() メソッドをサポートするオブジェクトを定義してください。そのオブジェクトを sys.stdoutsys.stderr に代入してください。print_error を呼び出すか、単に標準のトレースバック機構を作動させてください。そうすれば、出力は write() が送る任意の所に行きます。

最も簡単な方法は、標準ライブラリの StringIO クラスを使うことです。

サンプルコードと出力の受け取り例:

>>> class StdoutCatcher:
...     def __init__(self):
...         self.data = ''
...     def write(self, stuff):
...         self.data = self.data + stuff
...
>>> import sys
>>> sys.stdout = StdoutCatcher()
>>> print 'foo'
>>> print 'hello world!'
>>> sys.stderr.write(sys.stdout.data)
foo
hello world!

C から Python で書かれたモジュールにアクセスするにはどうしますか?

以下のようにモジュールオブジェクトへのポインタを得られます:

module = PyImport_ImportModule("<modulename>");

そのモジュールがまだインポートされていない (つまり、まだ sys.modules に現れていない) なら、これはモジュールを初期化します。そうでなければ、単純に sys.modules["<modulename>"] の値を返します。なお、これはモジュールをいかなる名前空間にも代入しません。これはモジュールが初期化されて 'sys.modules に保管されていることを保証するだけです。

これで、モジュールの属性 (つまり、モジュールで定義された任意の名前) に以下のようにアクセスできるようになります:

attr = PyObject_GetAttrString(module, "<attrname>");

PyObject_SetAttrString() を呼んでモジュールの変数に代入することもできます。

Python から C++ へインタフェースするにはどうしますか?

やりたいことに応じて、いろいろな方法があります。手動でやるなら、 "拡張と埋め込み" ドキュメント を読むことから始めてください。なお、Python ランタイムシステムにとっては、 C と C++ はあまり変わりません。だから、C 構造体 (ポインタ)型に基づいて新しい Python の型を構築する方針は C++ オブジェクトに対しても有効です。

C++ ライブラリに関しては、 C を書くのは大変です。他の方法はありませんか? を参照してください。

セットアップファイルでモジュールを追加しようとしたらメイクに失敗しました。なぜですか?

セットアップは改行で終わらなければならなくて、改行がないと、ビルド工程は失敗します。(これを直すには、ある種の醜いシェルスクリプトハックが必要ですが、このバグは小さいものですから努力に見合う価値はないでしょう。)

拡張をデバッグするにはどうしますか?

動的にロードされた拡張に GDB を使うとき、拡張がロードされるまでブレークポイントを設定してはいけません。

.gdbinit ファイルに(または対話的に)、このコマンドを加えてください:

br _PyImport_LoadDynamicModule

そして、GDB を起動するときに:

$ gdb /local/bin/python
gdb) run myscript.py
gdb) continue # repeat until your extension is loaded
gdb) finish   # so that your extension is loaded
gdb) br myfunction.c:50
gdb) continue

Linux システムで Python モジュールをコンパイルしたいのですが、見つからないファイルがあります。なぜですか?

Python の多くのパッケージバージョンには、Python 拡張をコンパイルするのに必要な様々なファイルを含む /usr/lib/python2.x/config/ ディレクトリが含まれていません。

Red Hat では、Python RPM をインストールして必要なファイルを得てください。

Debian では、 apt-get install python-dev を実行してください。

"SystemError: _PyImport_FixupExtension: module yourmodule not loaded" とはどういう意味ですか?

これは、"yourmodule" という名前の拡張モジュールが生成されたけれど、モジュールの init 関数がその名前で初期化しないという意味です。

全てのモジュールの init 関数には次のような行があるでしょう:

module = Py_InitModule("yourmodule", yourmodule_functions);

この関数に渡された文字列が拡張モジュールと同じ名前でない場合、 SystemError 例外が発生します。

"不完全 (incomplete) な入力" を "不適切 (invalid) な入力" から区別するにはどうしますか?

Python インタラクティブインタプリタでは、入力が不完全なとき (例えば、 "if" 文の始まりをタイプした時や、カッコや三重文字列引用符を閉じていない時など) には継続プロンプトを与えられますが、入力が不適切であるときには即座に構文エラーメッセージが与えられます。このようなふるまいを模倣したいことがあります。

Python では構文解析器のふるまいに十分に近い codeop モジュールが使えます。例えば IDLE がこれを使っています。

これを C で行う最も簡単な方法は、 PyRun_InteractiveLoop() を (必要ならば別のスレッドで) 呼び出し、Python インタプリタにあなたの入力を扱わせることです。独自の入力関数を指定するのに PyOS_ReadlineFunctionPointer() を設定することもできます。詳しいヒントは、 Modules/readline.cParser/myreadline.c を参照してください。

しかし、組み込みの Python インタプリタを他のアプリケーションと同じスレッドで実行することが必要で、 PyRun_InteractiveLoop() でユーザの入力を待っている間止められないこともあります。このような場合の解決策の一つは、 PyParser_ParseString() を呼んで e.errorE_EOF が等しいこと、つまり入力が不完全であることを確かめることです。これは、Alex Farber のコードを参考にした、コード片の例です:

#include <Python.h>
#include <node.h>
#include <errcode.h>
#include <grammar.h>
#include <parsetok.h>
#include <compile.h>

int testcomplete(char *code)
  /* code should end in \n */
  /* return -1 for error, 0 for incomplete, 1 for complete */
{
  node *n;
  perrdetail e;

  n = PyParser_ParseString(code, &_PyParser_Grammar,
                           Py_file_input, &e);
  if (n == NULL) {
    if (e.error == E_EOF)
      return 0;
    return -1;
  }

  PyNode_Free(n);
  return 1;
}

別の解決策は、受け取られた文字列を Py_CompileString() でコンパイルすることを試みることです。エラー無くコンパイルされたら、返されたコードオブジェクトを PyEval_EvalCode() を呼んで実行することを試みてください。そうでなければ、入力を後のために保存してください。コンパイルが失敗したなら、それがエラーなのか入力の続きが求められているだけなのか調べてください。そのためには、例外タプルからメッセージ文字列を展開し、それを文字列 "unexpected EOF while parsing" と比較します。ここに GNU readline library を使った完全な例があります (readline() を読んでいる間は SIGINT を無視したいかもしれません):

#include <stdio.h>
#include <readline.h>

#include <Python.h>
#include <object.h>
#include <compile.h>
#include <eval.h>

int main (int argc, char* argv[])
{
  int i, j, done = 0;                          /* lengths of line, code */
  char ps1[] = ">>> ";
  char ps2[] = "... ";
  char *prompt = ps1;
  char *msg, *line, *code = NULL;
  PyObject *src, *glb, *loc;
  PyObject *exc, *val, *trb, *obj, *dum;

  Py_Initialize ();
  loc = PyDict_New ();
  glb = PyDict_New ();
  PyDict_SetItemString (glb, "__builtins__", PyEval_GetBuiltins ());

  while (!done)
  {
    line = readline (prompt);

    if (NULL == line)                          /* Ctrl-D pressed */
    {
      done = 1;
    }
    else
    {
      i = strlen (line);

      if (i > 0)
        add_history (line);                    /* save non-empty lines */

      if (NULL == code)                        /* nothing in code yet */
        j = 0;
      else
        j = strlen (code);

      code = realloc (code, i + j + 2);
      if (NULL == code)                        /* out of memory */
        exit (1);

      if (0 == j)                              /* code was empty, so */
        code[0] = '\0';                        /* keep strncat happy */

      strncat (code, line, i);                 /* append line to code */
      code[i + j] = '\n';                      /* append '\n' to code */
      code[i + j + 1] = '\0';

      src = Py_CompileString (code, "<stdin>", Py_single_input);

      if (NULL != src)                         /* compiled just fine - */
      {
        if (ps1  == prompt ||                  /* ">>> " or */
            '\n' == code[i + j - 1])           /* "... " and double '\n' */
        {                                               /* so execute it */
          dum = PyEval_EvalCode ((PyCodeObject *)src, glb, loc);
          Py_XDECREF (dum);
          Py_XDECREF (src);
          free (code);
          code = NULL;
          if (PyErr_Occurred ())
            PyErr_Print ();
          prompt = ps1;
        }
      }                                        /* syntax error or E_EOF? */
      else if (PyErr_ExceptionMatches (PyExc_SyntaxError))
      {
        PyErr_Fetch (&exc, &val, &trb);        /* clears exception! */

        if (PyArg_ParseTuple (val, "sO", &msg, &obj) &&
            !strcmp (msg, "unexpected EOF while parsing")) /* E_EOF */
        {
          Py_XDECREF (exc);
          Py_XDECREF (val);
          Py_XDECREF (trb);
          prompt = ps2;
        }
        else                                   /* some other syntax error */
        {
          PyErr_Restore (exc, val, trb);
          PyErr_Print ();
          free (code);
          code = NULL;
          prompt = ps1;
        }
      }
      else                                     /* some non-syntax error */
      {
        PyErr_Print ();
        free (code);
        code = NULL;
        prompt = ps1;
      }

      free (line);
    }
  }

  Py_XDECREF(glb);
  Py_XDECREF(loc);
  Py_Finalize();
  exit(0);
}

未定義の g++ シンボル __builtin_new や __pure_virtual を見つけるにはどうしますか?

g++ モジュールを動的にロードするには、Python を再コンパイルし、それを g++ で再リンク (Python Modules Makefile 内の LINKCC を変更) し、拡張を g++ でリンク (例えば g++ -shared -o mymodule.so mymodule.o) しなければなりません。

メソッドのいくつかは C で、その他は Python で実装されたオブジェクトクラスを (継承などで) 作ることはできますか?

はい、 intlistdict などのビルトインクラスから継承できます。

The Boost Python Library (BPL, http://www.boost.org/libs/python/doc/index.html) を使えば、これを C++ からできます。 (すなわち、BPL を使って C++ で書かれた拡張クラスを継承できます).

モジュール X をインポートした時に "undefined symbol: PyUnicodeUCS2*" と言われるのはなぜですか?

あなたは Unicode 文字に 4 バイト表現を使う Python のバージョンを使っていますが、インポートされた C 拡張モジュールに Unicode 文字に (デフォルトの) 2 バイト表現を使う Python でコンパイルされたものがあります。

未定義のシンボルの名前が PyUnicodeUCS4 で始まるのなら、逆の問題です: Python は 2 バイト Unicode 文字でビルトされていて、拡張モジュールは 4 バイト Unicode 文字の Python でコンパイルされています。

これはあらかじめビルドされた拡張パッケージを使っているときに起こりやすいです。とりわけ、RedHat Linux 7.x は 4 バイトユニコードでコンパイルされた "python2" バイナリを提供しました。これは拡張が PyUnicode_*() 関数のどれかを使っているとリンクの失敗を起こすだけです。拡張が Unicode に関連する Py_BuildValue() (等)へのフォーマット指定や PyArg_ParseTuple() へのパラメタ指定を何かしら含んでいても問題になります。

Python インタプリタが使っている Unicode 文字のサイズは、 sys.maxunicode の値を調べることで確かめられます:

>>> import sys
>>> if sys.maxunicode > 65535:
...     print 'UCS4 build'
... else:
...     print 'UCS2 build'

この問題を解決する唯一の方法は、Unicode 文字に同じサイズを使ってビルドされた Python バイナリでコンパイルされた拡張モジュールを使うことです。