5. 他のアプリケーションへの Python の埋め込み¶
前章では、 Python を拡張する方法、すなわち C 関数のライブラリを Python に結びつけて機能を拡張する方法について述べました。同じようなことを別の方法でも実行できます: それは、自分の C/C++ アプリケーションに Python を埋め込んで機能を強化する、というものです。埋め込みを行うことで、アプリケーションの何らかの機能を C や C++ の代わりに Python で実装できるようになります。埋め込みは多くの用途で利用できます; ユーザが Python でスクリプトを書き、アプリケーションを自分好みに仕立てられるようにする、というのがその一例です。プログラマが、特定の機能を Python でより楽に書ける場合に自分自身のために埋め込みを行うこともできます。
Python の埋め込みは Python の拡張と似ていますが、全く同じというわけではありません。その違いは、Python を拡張した場合にはアプリケーションのメインプログラムは依然として Python インタプリタである一方、 Python を組み込みんだ場合には、メインプログラムには Python が関係しない — その代わりに、アプリケーションのある一部分が時折 Python インタプリタを呼び出して何らかの Python コードを実行させる — かもしれない、ということです。
従って、 Python の埋め込みを行う場合、自作のメインプログラムを提供しなければなりません。メインプログラムがやらなければならないことの一つに、 Python インタプリタの初期化があります。とにかく少なくとも関数 Py_Initialize()
を呼び出さねばなりません。オプションとして、Python 側にコマンドライン引数を渡すために関数呼び出しを行います。その後、アプリケーションのどこでもインタプリタを呼び出せるようになります。
インタプリタを呼び出すには、異なるいくつかの方法があります: Python 文が入った文字列を PyRun_SimpleString()
に渡す、 stdio ファイルポインタとファイル名 (これはエラーメッセージ内でコードを識別するためだけのものです) を PyRun_SimpleFile()
に渡す、といった具合です。これまでの各章で説明した低水準の操作を呼び出して、Python オブジェクトを構築したり使用したりもできます。
Python の埋め込みを行っている簡単なデモは、ソース配布物の Demo/embed/
ディレクトリにあります。
参考
- Python/C API リファレンスマニュアル
- Python C インタフェースの詳細はこのマニュアルに書かれています。必要な情報の大部分はここにあるはずです。
5.1. 高水準の埋め込み¶
Python の埋め込みの最も簡単な形式は、超高水準インタフェースの利用です。このインタフェースは、アプリケーションとやり取りする必要がない Python スクリプトを実行するためのものです。例えばこれは、一つのファイル上で何らかの操作を実現するのに利用できます。
#include <Python.h>
int
main(int argc, char *argv[])
{
Py_SetProgramName(argv[0]); /* optional but recommended */
Py_Initialize();
PyRun_SimpleString("from time import time,ctime\n"
"print 'Today is',ctime(time())\n");
Py_Finalize();
return 0;
}
Py_Initialize()
の前に関数 Py_SetProgramName()
を呼び出すべきです。これによりインタプリタにランタイムライブラリへのパスを伝えることが出来ます。続いて、Python インタプリタを Py_Initialize()
で初期化し、続いてハードコードされた Python スクリプトで日付と時間の出力を実行します。その後、 Py_Finalize()
の呼び出しでインタプリタを終了し, プログラムの終了に続きます。実際のプログラムでは、Python スクリプトを他のソース、おそらくテキストエディタルーチンやファイル、データベースから取り出したいと考えるかもしれません。Python コードをファイルから取り出すには、 PyRun_SimpleFile()
関数を使うのがよいでしょう。この関数はメモリを確保して、ファイルの内容をロードする手間を省いてくれます。
5.2. 超高水準の埋め込みから踏み出す: 概要¶
高水準インタフェースは、断片的な Python コードをアプリケーションから実行できるようにしてくれますが、アプリケーションと Python コードの間でのデータのやり取りは、控えめに言っても煩わしいものです。データのやり取りをしたいなら、より低水準のインタフェース呼び出しを利用しなくてはなりません。より多く C コードを書かねばならない代わりに、ほぼ何でもできるようになります。
Python の拡張と埋め込みは、趣旨こそ違え、同じ作業であるということに注意せねばなりません。これまでの章で議論してきたトピックのほとんどが埋め込みでもあてはまります。これを示すために、 Python から C への拡張を行うコードが実際には何をするか考えてみましょう:
- データ値を Python から C に変換する。
- 変換された値を使って C ルーチンの関数呼び出しを行い、
- 呼び出しで得られたデータ値 C から Python に変換する。
Python を埋め込む場合には、インタフェースコードが行う作業は以下のようになります:
- データ値を C から Python に変換する。
- 変換された値を使って Python インタフェースルーチンの関数呼び出しを行い、
- 呼び出しで得られたデータ値 Python から C に変換する。
一見して分かるように、データ変換のステップは、言語間でデータを転送する方向が変わったのに合わせて単に入れ替えただけです。唯一の相違点は、データ変換の間にあるルーチンです。拡張を行う際には C ルーチンを呼び出しますが、埋め込みの際には Python ルーチンを呼び出します。
この章では、Python から C へ、そしてその逆へとデータを変換する方法については議論しません。また、正しい参照の使い方やエラーの扱い方についてすでに理解しているものと仮定します。これらの側面についてはインタプリタの拡張と何ら変わるところがないので、必要な情報については以前の章を参照できます。
5.3. 純粋な埋め込み¶
最初に例示するプログラムは、Python スクリプト内の関数を実行するためのものです。超高水準インタフェースに関する節で挙げた例と同様に、Python インタプリタはアプリケーションと直接やりとりはしません (が、次の節でやりとりするよう変更します)。
Python スクリプト内で定義されている関数を実行するためのコードは以下のようになります:
#include <Python.h>
int
main(int argc, char *argv[])
{
PyObject *pName, *pModule, *pDict, *pFunc;
PyObject *pArgs, *pValue;
int i;
if (argc < 3) {
fprintf(stderr,"Usage: call pythonfile funcname [args]\n");
return 1;
}
Py_Initialize();
pName = PyString_FromString(argv[1]);
/* Error checking of pName left out */
pModule = PyImport_Import(pName);
Py_DECREF(pName);
if (pModule != NULL) {
pFunc = PyObject_GetAttrString(pModule, argv[2]);
/* pFunc is a new reference */
if (pFunc && PyCallable_Check(pFunc)) {
pArgs = PyTuple_New(argc - 3);
for (i = 0; i < argc - 3; ++i) {
pValue = PyInt_FromLong(atoi(argv[i + 3]));
if (!pValue) {
Py_DECREF(pArgs);
Py_DECREF(pModule);
fprintf(stderr, "Cannot convert argument\n");
return 1;
}
/* pValue reference stolen here: */
PyTuple_SetItem(pArgs, i, pValue);
}
pValue = PyObject_CallObject(pFunc, pArgs);
Py_DECREF(pArgs);
if (pValue != NULL) {
printf("Result of call: %ld\n", PyInt_AsLong(pValue));
Py_DECREF(pValue);
}
else {
Py_DECREF(pFunc);
Py_DECREF(pModule);
PyErr_Print();
fprintf(stderr,"Call failed\n");
return 1;
}
}
else {
if (PyErr_Occurred())
PyErr_Print();
fprintf(stderr, "Cannot find function \"%s\"\n", argv[2]);
}
Py_XDECREF(pFunc);
Py_DECREF(pModule);
}
else {
PyErr_Print();
fprintf(stderr, "Failed to load \"%s\"\n", argv[1]);
return 1;
}
Py_Finalize();
return 0;
}
このコードは argv[1]
を使って Python スクリプトをロードし、 argv[2]
内に指定された名前の関数を呼び出します。関数の整数引数は argv
配列中の他の値になります。このプログラムをコンパイルしてリンクし (できた実行可能形式を call と呼びましょう)、以下のような Python スクリプトを実行することにします:
def multiply(a,b):
print "Will compute", a, "times", b
c = 0
for i in range(0, a):
c = c + b
return c
実行結果は以下のようになるはずです:
$ call multiply multiply 3 2
Will compute 3 times 2
Result of call: 6
この程度の機能を実現するにはプログラムがいささか大きすぎますが、ほとんどは Python から C へのデータ変換やエラー報告のためのコードです。Python の埋め込みという観点から最も興味深い部分は以下のコードから始まる部分です:
Py_Initialize();
pName = PyString_FromString(argv[1]);
/* Error checking of pName left out */
pModule = PyImport_Import(pName);
インタプリタの初期化後、スクリプトは PyImport_Import()
を使って読み込まれます。このルーチンは Python 文字列を引数に取る必要があり、データ変換ルーチン PyString_FromString()
で構築します。
pFunc = PyObject_GetAttrString(pModule, argv[2]);
/* pFunc is a new reference */
if (pFunc && PyCallable_Check(pFunc)) {
...
}
Py_XDECREF(pFunc);
ひとたびスクリプトが読み込まれると、 PyObject_GetAttrString()
を使って必要な名前を取得できます。名前がスクリプト中に存在し、取得したオブジェクトが呼び出し可能オブジェクトであれば、このオブジェクトが関数であると考えて差し支えないでしょう。そこでプログラムは定石どおりに引数のタプル構築に進みます。その後、Python 関数を以下のコードで呼び出します:
pValue = PyObject_CallObject(pFunc, pArgs);
関数が処理を戻す際、 pValue
は NULL になるか、関数の戻り値への参照が入っています。値を調べた後には忘れずに参照を解放してください。
5.4. 埋め込まれた Python の拡張¶
ここまでは、埋め込み Python インタプリタはアプリケーション本体の機能にアクセスする手段がありませんでした。 Python API を使うと、埋め込みインタプリタを拡張することでアプリケーション本体へのアクセスを可能にします。つまり、アプリケーションで提供されているルーチンを使って、埋め込みインタプリタを拡張するのです。複雑なことのように思えますが、それほどひどいわけではありません。さしあたって、アプリケーションが Python インタプリタを起動したということをちょっと忘れてみてください。その代わり、アプリケーションがサブルーチンの集まりで、あたかも普通の Python 拡張モジュールを書くかのように、Python から各ルーチンにアクセスできるようにするグルー(glue, 糊) コードを書くと考えてください。例えば以下のようにです:
static int numargs=0;
/* Return the number of arguments of the application command line */
static PyObject*
emb_numargs(PyObject *self, PyObject *args)
{
if(!PyArg_ParseTuple(args, ":numargs"))
return NULL;
return Py_BuildValue("i", numargs);
}
static PyMethodDef EmbMethods[] = {
{"numargs", emb_numargs, METH_VARARGS,
"Return the number of arguments received by the process."},
{NULL, NULL, 0, NULL}
};
上のコードを main()
関数のすぐ上に挿入します。また、以下の二つの文を Py_Initialize()
の直後に挿入します:
numargs = argc;
Py_InitModule("emb", EmbMethods);
これら二つの行は numargs
変数を初期化し、埋め込み Python インタプリタから emb.numargs()
関数にアクセスできるようにします。これらの拡張モジュール関数を使うと、 Python スクリプトは以下のようなことができます。
import emb
print "Number of arguments", emb.numargs()
実際のアプリケーションでは、こうしたメソッドでアプリケーション内の API を Python に公開することになります。
5.5. C++による Python の埋め込み¶
C++ プログラム中にも Python を埋め込めます; 厳密に言うと、どうやって埋め込むかは使っているC++ 処理系の詳細に依存します; 一般的には、メインプログラムをC++で書き、C++ コンパイラを使ってプログラムをコンパイル・リンクする必要があるでしょう。 Python 自体を C++でコンパイルしなおす必要はありません。
5.6. Unix 系システムにおけるコンパイルとリンク¶
Python インタプリタをアプリケーションに埋め込むためにコンパイラ (とリンカ) に渡すべき正しいフラグを見出すのは簡単でないかもしれません。これは特に、Python がライブラリモジュールに対してリンクされた C 動的拡張 (.so
ファイル) として実装されたものをロードする必要があるためです。
必要なコンパイル・リンクのオプションを知るために、 pythonX.Y-config
スクリプトが使えます(これは Python インストール時に生成されたもので、バージョン付けされていない命名の python-config
スクリプトも利用出来るかもしれません)。このスクリプトにはオプションが多くありますが、直接的に有用なのはこれでしょう:
pythonX.Y-config --cflags
は推奨のコンパイルオプションを出力します:$ /opt/bin/python2.7-config --cflags -I/opt/include/python2.7 -fno-strict-aliasing -DNDEBUG -g -fwrapv -O3 -Wall -Wstrict-prototypes
pythonX.Y-config --ldflags
は推奨のリンクオプションを出力します:$ /opt/bin/python2.7-config --ldflags -L/opt/lib/python2.7/config -lpthread -ldl -lutil -lm -lpython2.7 -Xlinker -export-dynamic
注釈
複数 Python バージョン共存(とりわけシステムの Python とあなた自身でビルドした Python)での混乱を避けるために、上での例のように pythonX.Y-config
は絶対パスで起動したほうが良いです。
もしこの手順でうまくいかなければ(たしかにこれは全ての Unix 的なプラットフォームで動作することを保障するものではないですが、 bug reports は歓迎です)、あなたのシステムのダイナミックリンクについてのドキュメントを読み、Python の Makefile
のコンパイルオプションを調べる必要があるでしょう。この場合、 sysconfig
モジュールが役に立つ道具になります。これによってあなたが付け加えたいコンパイル・リンクのオプション構成をプログラム的に抽出できます。例えば:
>>> import sysconfig
>>> sysconfig.get_config_var('LIBS')
'-lpthread -ldl -lutil'
>>> sysconfig.get_config_var('LINKFORSHARED')
'-Xlinker -export-dynamic'